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パッと知りたい! 人と差がつく乱流と乱流モデル講座 第12回 12.1 Large Eddy Simulation、12.2 Smagorinskyモデル、12.3 スケール相似則モデル

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パッと知りたい! 人と差がつく乱流と乱流モデル講座

乱流の計算方法 (6) Large Eddy Simulation(LES)

12.1 Large Eddy Simulation(LES)

 今回はいよいよ Large Eddy Simulation(LES) の説明です。計算環境の進化に伴い、設計現場でもLESで計算する(したい)場面が増えてきたのではないかと思います。RANSでは平均場しか見ないと割り切ることで、計算コストを下げる手法でしたが、非定常的な現象を計算したい場面も少なくなく、また RANS による解析精度の限界もあるため、LESへの期待が高まっています。
 現実の 流れ 乱流 )の中には大小様々な が生成されています。LESではメッシュで捉えられる大きな渦は直接計算し、メッシュ で捉えられない小さな渦はモデルによって、その影響を加味して計算します(図12.1)。小さな渦の影響を模擬するモデルのことを「Subgrid scale(SGS) モデル」と呼び、SGS応力と言う仮想的な応力でモデル化します。Subgrid scaleとはメッシュサイズよりも小さなサイズという意味です。反対にメッシュサイズよりも大きなサイズのことを Grid scale(GS) と言います。大きな渦はすべて直接計算することから、モデルに頼る割合が小さく、RANSよりも汎用性の高い計算方法と言えます。


バックステップ流れ
図12.1 LESのイメージ


 RANSとLESの違いを整理すると表12.1のようになります。RANSでは時間平均場を対象にすることから、メッシュサイズよりも大きな渦でも変動する渦は計算の対象としていません。一方、LESではメッシュサイズより大きな渦であれば、すべて計算対象となります。第8回でRANSでは横断歩道を渡る人たちのおおまかな人数を把握することと説明しました。LESでは必要なサイズのメッシュさえ準備しておけば、時々刻々と変化する歩く人たちの細かい動きも捉えることができるということです。

表12.1 LESとRANSの比較
  LES RANS
メッシュサイズより大きな渦 すべて直接計算 平均場のみ直接計算
変動場はモデル化
メッシュサイズより小さい渦 モデル化 モデル化
 

12.2 Smagorinskyモデル

 SGSモデルの代表例であるSmagorinskyモデルについて説明します。Smagorinskyモデルでは、RANSと同様に 速度勾配 に比例する仮想的な応力を考えたモデルを使います。つまり、


渦粘性係数×速度勾配


という形の応力モデルです。RANSでは 流速 とは別に方程式を解いて得られる乱流エネルギーと乱流消失率によって 渦粘性係数 を与えているのに対して、Smagorinskyモデルでは方程式は解かず、メッシュサイズと速度勾配の大きさに比例するとして次式のように渦粘性係数を与えます。


渦粘性係数=CS・Δ2・(速度勾配の大きさ)


 ここで、Δはメッシュサイズです。上式のようにSmagorinskyモデルの渦粘性係数の式にはCSというモデル定数が含まれています。CSは代表的な流れ場でチューニングすると、0.1~0.2の値を取ることが分っていますが、値を決める明確な指針がなく、解析に曖昧さを生じています。そこで、その不便さを解消するためにCSを自動で調整してくれる計算手法が提案されました。 Dynamic Smagorinskyモデル(DSM) と呼ばれるモデルです。DSMでは、直接計算する流れ場(GS)を大きなサイズと小さなサイズに分離して、両者の間で生じる作用がGSとSGSの間で生じる作用と相似であると仮定してCSを計算します(図12.2)。Grid scaleの中でより大きなサイズの領域は「 Test scale 」と呼ぶこともあります。


翼周り流れの解析
図12.2 Dynamic Smagorinskyモデルの仮定


12.3 スケール相似則モデル

 Smagorinskyモデルは使い勝手の良いモデルで、現在に至ってもSGSモデルの主流のモデルですが、ひとつ大きな欠点があります。小さい渦から大きな渦へのエネルギーの逆流が表現できないということです。乱流では大きな渦によって小さい渦が生まれますが、小さい渦同士が合体して大きな渦となる場合もあり、エネルギーの逆流(いわゆる 逆カスケード )が生じています。つまり、小さい渦が持っていたエネルギーが合体によって、大きな渦のエネルギーになるという、通常とは逆向きのエネルギーの移動です。Smagorinskyモデルは、渦粘性という見かけの粘性の増加をするだけのモデルですので、大きな渦からエネルギーを奪う効果しか持てません。そこで、逆カスケードを表現できるモデルとして提案されたのが「 スケール相似則モデル 」です。スケール相似則モデルでは、メッシュサイズより少し大きい渦と少し小さい渦が似ていると仮定してモデル化します(図12.3)。


翼周り流れの乱流モデルによる比較
図12.3 スケール相似則


 そして、これを式で書きますと、



のようになります。SGS応力に含まれる流速をGS場の流速に置き換えて計算するモデルです。Smagorinskyモデルのように速度勾配と渦粘性係数を使ったモデルではないため、逆カスケードの表現が可能になっています。商用のソフトウェアに導入された例はほとんどないと思いますが、SGSモデルの種類のひとつとしてご紹介しました。次回はLESの計算例についてお話しします。





著者プロフィール
伊丹 隆夫 | 1973年7月 神奈川県出身
東京工業大学 大学院 理工学研究科卒業
博士(工学)

大学では一貫して乱流の数値計算による研究に従事。 車両メーカーでの設計経験を経た後、大学院博士課程において圧縮性乱流とLES(Large Eddy Simulation)の研究で学位を取得し、現職に至る。 大学での研究経験とメーカーの設計現場においてCAEを活用する立場という2つの経験を生かし、お客様の問題を解決するためのコンサルティングエンジニアとして活動中。

 

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