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技術情報・コラム

建築デザイナー必見!ビル風コラム 第13回 

「ビル風8」:活用のヒント


13.1 ビル風=風害、だけではないこと

 ビル風というと、とかく強風による風害にばかりに関心が向かいがちですが、風の特性を理解していれば、様々な活用方法を見つけることができるはずです。
  時々発生する強風時に、ただひたすら耐える・避けるための防風対策だけではなく、強風を電力エネルギーに変換したり、適度な風を生活空間に導くための風の道を造ったりするような風力活用を行うべきです。
 風力活用の発想は大分以前からありました。ただ経済大国であった日本では生活環境の中にある程度無駄が合ったとしても、多くの人たちは快適な生活環境を作る事ができていたと思います。それが風力活用の積極的な採用を阻んでいたのではないかとも考えています。

  • 高層建物周辺に発生する強風域に常緑樹を植えまくってランク(1)にさえすれば良いのか?
  • 気密性・断熱性の高い住戸に電力効率の高いエアコンを設置して、室内に快適な人工気候を作ることがBESTなのか?

答えはNOだと思います。


13.2 強風を利用する

 ビル風によって生じる強風は時に風害をもたらしますが、それをエネルギーに変換するという考え方は決して浅はかな発想ではなく、理にかなっていると思います。
 高層建物の周辺で生じる強風域に風力発電機を設置すれば、任意の場所に設置する場合に比べて発電効率の大幅な向上が期待できます。ただし、近年、大型の風力発電機が設置されはじめている海岸線や山の上とは異なり、都市部では風の乱れが強く、設置スペースに制約がある場合も多いため、そういった場所に適した種類の風力発電機の導入が必要です。
 海岸線や山の上に設置されている風車状の風力発電機は、水平軸型風力発電機=プロペラタイプというもので、比較的発電効率が高い種類であり、大型にすることで1機あたりの発電量を確保しやすい特徴があります。ただし、大きく風向変化するような場所では発電効率が悪く、特に小型化した場合は騒音の問題も発生しやすくなります。
 都市部で利用する際は垂直軸型風力発電機というものが適していると考えられます。プロペラタイプに比べると発電効率は劣りますが、風向変化の影響が無く、比較的低騒音であるため、都市部では使い勝手が良いと思います。
 風力発電機の設置には別のメリットも考えられます。風力発電機の風下では樹木と同じように風が弱まります。すなわち、風力発電機の設置は防風対策にもなるのです。樹木とは異なり枯れたり経年変化したりしませんので、防風機能の維持や効果予測も行い易いです。
 ビル風を利用した風力発電機はすでに数多くの検証例があるようですが、実際の導入に際しては事前に厳密なシミュレーションが必要であり、そこを疎かにすると安全性やコスト的にも様々なリスクを抱えることになります。CFD解析等で高精度のビル風シミュレーションを行えば発電量の正確な予測も出来ますし、ビル風風力発電に最適な建物設計も行えます。
 図1~3は平面寸法30m×30mで高さ90mの角柱状高層建物の正面から風が吹いた場合の解析結果です。図1、図2、図3はそれぞれ地上高さ5、45、95mにおける風速比コンターを示しています。ここでの風速比は地上高さ10mの流入風をそれぞれ基準としています。

地上+5mの風速比コンター
図1 地上+5mの風速比コンター

地上+45mの風速比コンター
図2 地上+45mの風速比コンター

屋上+5mの風速比コンター
図3 屋上+5mの風速比コンター

 以上の解析結果を見ると風上の隅角部付近に強風域がありますので、その地域の卓越風の風上の隅角部付近に風力発電機を設置すると効率的です(図4)。

風力発電機の設置に適した場所
図4 風力発電機の設置に適した場所


13.3 風圧力を利用する

 ビル風を生じさせる建物およびその周辺の建物や地盤には風圧力が作用します。基本的な特性としては建物の風上側に正圧、風下側と風直行側に負圧が生じます。また、室内にも屋外から伝播した風圧が生じます。その特性を把握できれば室内に風を呼び込み、換気扇やクーラーの代わりとして利用することができるようになります。
 図5~6は前項の解析結果から壁面の風圧係数を示したものです。ここでの風圧係数は地上高さ90mの流入風をそれぞれ基準としています。

壁面の風圧係数コンター(鳥瞰)
図5 壁面の風圧係数コンター(鳥瞰)

壁面の風圧係数コンター(鉛直断面)
図6 壁面の風圧係数コンター(鉛直断面)

 以上の解析結果を見ると建物の風上側に正圧、風下側と風直行側に負圧が生じているのが分かると思います。壁面の風圧係数の情報から風力換気量を以下の式で概算できます。

Q=αAv(Cp1-Cp2)0.5

 ここで、
 Q:換気量(m3/s)
 α:流量係数(開口部の傾き等による)
 A:開口面積(m2
 v:風速(m/s)
 Cp1:風上側風圧係数
 Cp2:風下側風圧係数

 圧力差がある箇所同士を開放し繋げると、そこに風の道が出来ます。図7~9は建物内部に風の道を通した解析例です。水平方向にも鉛直方向にも風の道を造ることが出来ます。

建物内部の風の道(水平方向)
図7 建物内部の風の道(水平方向)※クリックで拡大

建物内部の風の道(鉛直断面UP)
図8 建物内部の風の道(鉛直断面UP)※クリックで拡大

建物内部の風の道(鉛直断面DOWN)
図9 建物内部の風の道(鉛直断面DOWN)※クリックで拡大

 以上の解析の応用で各住戸の各部屋に風を呼び込むような設計の検証が可能となります。具体的な住戸部屋形状を入力すれば、各箇所での風向風速分布も検証できます。

 図10に戸建住戸をイメージした解析例を示します。

建物内部の風の道(各部屋通風)
図10 建物内部の風の道(各部屋通風)※クリックで拡大

 戸建住戸は高層建物に比べるとあまり大きな風力が作用しません。とくに住宅密集地域では強風時でも小さな風力しか作用しませんので、重力(温度差)換気を主体的にしつつ、ウインドキャッチャーやウインドチムニーなどの仕掛けを併用するのが有効的と思います。


13.4 まとめ

  今回は風力活用について説明し、解析例もご紹介しました。普段のビル風の解析ではほとんどの場合、計画建物周辺の風環境(強風による風害)までしか評価されませんが、本来は同じ解析データから風力発電機の発電量や室内換気・通風量を評価することも可能なのです。
 建物の開口部と室内の形状を入力すれば、各部屋を通り抜ける風の状況を把握でき、風の道を造る為の設計も可能です。その際に重要なのはあくまでビル風解析の中で行うことです。計画建物単体だけの解析では実際とは、かけ離れた結果になる場合がほとんどですのでご注意を。
 高層建物周辺の強風域については建物形状や配置の工夫により可能な限り生じさせないことが安全性の観点からは理想ですが、それにより利便性や機能性や経済性等が大きく失われてしまえば意味がありません。どっちみち発生してしまう現象であれば安全性を確保しつつ、他の性能が低下しないように、有効利用することも考えてみましょう。
 気密性・断熱性の高い住戸に電力効率の高いエアコンを設置して、室内に快適な人工気候を作ること。比較的温暖で過ごし易く、エアコン性能が高い日本ではスタンダードであったのかもしれません。でも、少し工夫すればエアコンのスイッチをオフにしても快適性を確保できる部屋、建物、場所、時間帯はたくさんあるはずです。これってもったいないですよね。ところかわって海外を見てみると、いまだ電力が安定供給されていない国が沢山あります。特に暑い国々です。そういった国々では風力活用の発想がとても重要になってくると思いますし、それが世界スタンダードになったとき、果たして日本のエアコン主義は生き残れるのでしょうか?
 なにもエアコン=悪とは思っていません。個人的には暑い夏は苦手ですし、ネットワーククラスタでCFD解析を年がら年中行っている立場としては、「やっぱクーラーは人類の至宝。まさに科学の勝利ね。(by ミサト)」に激しく同意するエアコン至上主義生活が続いています。ただ、やはり、猛暑時などどうしてもエアコン様に頼らなければならない時以外は、風力活用技術を総動員して風神様にがんばってもらいたいです。弊社はバンバン解析しますので、建築デザイナーさんはそのデータを活用し、真の風力活用建物を設計してください。腕の見せ所ですよ!

 

松山哲雄(写真)
著者プロフィール
松山 哲雄 | 1973年1月 新潟県生まれ
⽇本⼤学⽣産⼯学部 建築⼯学科 耐⾵⼯学専攻
1998 年に熊⾕組⼊社。技術研究所にて、⾵⼯学の基礎研究に従事。超⾼層建物の空⼒振動シミュレーション技術の開発やCFD 解析による⾵環境評価技術の普及展開等を実施。2003 年に独⽴し、WindStyle を設⽴。CFD 解析や⾵洞実験および実測調査を通して、ビル⾵問題を中⼼に⾵⼯学に関わる様々な問題を解決するためのコンサルティングサービスを展開し、現在に⾄る。

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