もっと知りたい! 熱流体解析の基礎17 第3章 流れ:3.3.2 圧縮性と非圧縮性(2)

3.3.2 圧縮性と非圧縮性(2)
今回はもう少し具体的に、 圧縮性流体 と 非圧縮性流体 の違いを見ていきます。
圧縮性流体では 流体 の体積変化を考えます。そのため、図3.20のようにシリンダーに圧縮性流体を満たした状態でピストンに力を加えると、体積が小さくなったり、大きくなったりします。ただし、シリンダー内の流体の質量は変わらないため、体積の変化によって 密度 が変化することになります。
図3.20 圧縮性流体の性質
一方、非圧縮性流体では流体の体積は変化しません。そのため、図3.21のようにピストンに力を加えたとしても体積を小さくしたり、大きくしたりすることはできません。
図3.21 非圧縮性流体の性質
非圧縮性流体で図3.22のように流入と流出がある系を考えたときには、もともと存在していた流体が流入した流体に押し出されて流出する形になります。そのため、流入する体積と流出する体積が必ずつり合っていなければいけません。もしつり合っていなければ、ある体積の空間に非圧縮性流体がどんどん押し込まれていく(もしくはどんどん取り去られていく)状態になり、非圧縮性流体なのに体積が変化していくという矛盾した状況が生まれます。
図3.22 流入と流出がある系
熱流体解析 では、流体を圧縮性流体とするか非圧縮性流体とするかを選択する必要があります。実在する流体は厳密には圧縮性流体ですが、非圧縮性流体のほうが計算の手続きがシンプルで、計算時間が短くて済みます。そのため、マッハ数 が小さく、圧縮性の影響が少ない流れでは、非圧縮性流体として計算を行うことが一般的です。
もっと知りたい マッハ数の意味
マッハ数の2乗は、流れ が持つ慣性力と流体の弾性力の比を表しています。
図3.23にも示すように、慣性力とは流れの勢いによって生じる力、弾性力とは流体を圧縮・膨張させるために必要な力を表しています。したがって、マッハ数は流れの勢いによって流体がどのくらい圧縮されるのかを表していることになります。
図3.23 マッハ数の物理的な意味
マッハ数が大きい(流れが速い)場合には、弾性力に比べて流れが持つ慣性力が大きくなります。そのため、流れによって流体が圧縮される度合いが大きく、圧縮性の影響を無視することができません。
一方、マッハ数が小さい(流れが遅い)場合には、弾性力に比べて流れが持つ慣性力が小さくなります。このときには、流れによって流体が圧縮される度合いはそれほど大きくなく、圧縮性の影響を無視することができます。
マッハ数のしきい値やその値の意味については前回の もっと知りたい にまとめていますので併せてご覧ください。

著者プロフィール
上山 篤史 | 1983年9月 兵庫県生まれ
大阪大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 博士後期課程修了
博士(工学)
学生時代は流体・構造連成問題に対する計算手法の研究に従事。入社後は、ソフトウェアクレイドル技術部コンサルティングエンジニアとして、既存ユーザーの技術サポートやセミナー、トレーニング業務などを担当。執筆したコラムに「流体解析の基礎講座」がある。
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