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パッと知りたい! 人と差がつく乱流と乱流モデル講座 第9回 9.1 RANSの計算例、9.2 乱流モデルによる比較

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パッと知りたい! 人と差がつく乱流と乱流モデル講座

乱流の計算方法 (3) レイノルズ平均モデル RANSの計算例

9.1 RANSの計算例

 前回は RANS の概要についてお話ししました。今回はRANSの計算例について説明します。ここでは図9.1に示すようなエンジンのバルブ周りの 流れ解析 を例に取り上げます。エンジンのバルブは図9.2のようにピストン上部空間の出入口にあり、吸気と排気のタイミングをコントロールする重要な部品です。バルブ周りの流れ解析によって、バルブを通過するときの 流れ の抵抗( 圧力損失 )や、流体 の混合性能を予測することができます。


交差点を渡る人々
図9.1 エンジンのバルブ周り流れ解析モデル


交差点を渡る人々
図9.2 エンジンのバルブ


 図9.3は LES によって解析したバルブ周りの の発生の様子です。LESについては後の回のコラムで詳しく説明しますが、簡単に説明しますと メッシュ サイズより大きなサイズの 渦管 を直接計算し、メッシュで捉えられないような小さな渦管の影響をモデルによって加味する計算手法です。バルブを通過する際に流れが乱れて、細かい渦管が多く発生している様子が捉えられています。図9.3のような結果が得られると、いかにも実現象らしいので面白い(私だけ?)ですが、並列計算機を使っても長い計算時間がかかるため、数多くのケーススタディーを行う設計の現場ではもっと短い時間で計算できる手法が望まれ、RANSが活用される訳です。RANS(標準k-εモデル)で解析した流れの結果が図9.4です。RANSで計算されるのは時間の平均場ですので、LESの結果を時間平均したものを並べて比較していますが、良く似た流れ場が得られていることが分ります。残念ながらRANSでは渦管の挙動を捉えることはできませんが、バルブ前後の圧力差やおおまかな流れの様子を知るためには十分です。RANSの計算時間はLESの数分の1から10分の1程度ですので、条件を変えたり、バルブの形状を変更したりという多くのケーススタディーを行うのに向いている計算手法です。



図9.3 LESによるバルブ周りの渦管の様子


速度差による歩行の乱れ
図9.4 バルブ周りの流れの比較


 次にRANSの 渦粘性係数 の分布を見てみます。図9.5のようにバルブの下流側に渦粘性係数の大きな領域が見られますが、これはLESにおける渦管がたくさん発生している領域と一致しています。実際にはLESの結果のように渦管が多数発生する乱れた流れ場になるところ、RANSでは渦粘性係数でその効果を加味して計算した結果、平均の速度場はLESに近いものが得られているということです。
 


速度差による歩行の乱れ
図9.5 渦粘性係数の分布と渦管


9.2 乱流モデルによる比較

 RANSでは「 乱流モデル 」によって、渦粘性係数を計算します。乱流モデルを変えると結果がどう変わるのか見てみましょう。図9.6は標準k-εモデルとその Kato-Launder補正 を行っているモデルによる流れベクトルの比較です。両者に違いはほとんど見られません。次に 乱流エネルギー 分布の比較です(図9.7)。標準k-εモデルでは下からバルブに流れが衝突するあたりに乱流エネルギーの極大値があります。一方、Kato-Launder補正のモデルでは、そのような分布は見られません。壁に流れが衝突すると 速度 が急変し、速度差が大きくなるため「乱れが発生する」と標準k-εモデルでは判断された結果です。  


ゴルフボールにできる渦
図9.6 流れベクトルの比較


ゴルフボールにできる渦
図9.7 乱流エネルギーの比較


 図9.8はLESの渦管分布をバルブ下側から眺めているアニメーションですが、見て分かるようにバルブ下側が白く抜けていて渦管が発生していないことが分ります。つまり、この計算の場合は、流れ場には影響を与えていないものの、乱流モデルによって乱流エネルギーの予測結果に違いあり、Kato-Launder補正がLESに近い妥当な予測をしたと言えます。乱流エネルギーの分布による影響が速度場に出なかった理由は、バルブ下側では流れが淀んでいるためと考えられます。次回は、RANSの壁条件などについてお話しします。



図9.8 バルブ下側の渦管(LES)





著者プロフィール
伊丹 隆夫 | 1973年7月 神奈川県出身
東京工業大学 大学院 理工学研究科卒業
博士(工学)

大学では一貫して乱流の数値計算による研究に従事。 車両メーカーでの設計経験を経た後、大学院博士課程において圧縮性乱流とLES(Large Eddy Simulation)の研究で学位を取得し、現職に至る。 大学での研究経験とメーカーの設計現場においてCAEを活用する立場という2つの経験を生かし、お客様の問題を解決するためのコンサルティングエンジニアとして活動中。

 

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