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パッと知りたい! 人と差がつく乱流と乱流モデル講座 第4回 4.1 乱れはどのように発生する?

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パッと知りたい! 人と差がつく乱流と乱流モデル講座

乱流のメカニズム (1)

 これまで 乱流 のイメージとその功罪、身近な天気予報と乱流の関係をお話してきました。そもそも乱流はどうして発生するのでしょうか。今回は乱流のメカニズムについてお話しします。
 

4.1 乱れはどのように発生する?

 乱流は「流れ が乱れている」状態ですが、仮に流れが全く均一(速度差ゼロ)のときには乱れは全く発生しません。現実には全く均一な流れ場というのは存在しませんので、なんとなく奇異に感じられるかもしれませんが、理論的にはそうです。何らかの要因で流れの中に速度差が発生すると乱れの元となります(図4.1)。



図4.1 速度差と乱れの関係


 では、どのように速度差が発生するのかですが、速度差を発生させる代表例の1つが壁の存在です。壁との 摩擦抵抗 によって、壁近くの流れにはブレーキがかかります。すると、壁と離れたところにある流れと壁近くの流れの間に速度差が発生することになります。車などの物体の周りの流れが乱れるのは、こうした壁における摩擦抵抗が大きな原因となっています。図4.2は壁で発生する速度差による乱れの計算例です。流れが床の段差に当たると、そこで生じる大きな速度差によって流れが乱れている様子が分ります。図4.3は、ある瞬間の速度ベクトルです。壁近傍の速度が小さくなることで、流れが渦巻いている様子が確認できます。



図4.2 壁による速度差で発生する乱れの計算例



図4.3 断面の速度ベクトル


 速度差が乱れを発生させることは、手を繋いで歩く人をイメージすると分り易いです(図4.4)。手を繋いだ2人が同じ速さで歩いているときには、特に問題なく歩けると思いますが、片方の人が急に立ち止まったり、速足で歩きだしたりしたときに、握っている手を離さずにいると、もう一方の人は体が回転させられます。流れの場合も同じで、ある場所の流れが減速したり、加速したりすると、その周囲の流れは回転し、 を巻くような状態が起こります。
 また、歩く速度が速いほど、止まった時に回転させられる勢いも強くなることが容易に想像できるように、流れも同じで流れの速度が速いほど、乱れの強さも大きくなります。乱流の指標として「 レイノルズ数 」というものがあり、レイノルズ数の値が大きいと乱流と判断されます。流れが速く、勢い(慣性)が大きいと、レイノルズ数の値は大きくなり、手を繋いだ2人が勢いよく走っている途中、片方の人が急に立ち止まった時をイメージすると、レイノルズ数が大きいと乱流と定義するイメージもお分かりいただけると思います。



図4.4 人の歩行における速度差の影響


 壁以外にも速度差を生じさせる要因はまだあります。浮力 です。例えば図4.5のように空気中に熱い物体があり周りの空気が暖められると暖かい空気は温度差による浮力により、重力とは反対の上向きに加速され、周囲の冷たい空気との間に速度差が発生し、乱れを発生させます。もちろん物体との間にも速度差が発生します。第1回のコラムでご紹介した 煙が上昇しながら渦を巻く現象 は温度差による浮力の影響でおこる乱れの例です。温度差による浮力とは厳密に言いますと、温度差によって空気の 密度 に不均一が生まれることによって生じる浮力です。したがって、水中の塩分濃度差によっても浮力が発生し、速度差が生まれることがあります。



図4.5 熱い物体による速度差と乱れの発生


 ある場所の流れが速度差によって渦を巻き、乱れると、その隣の流れにも渦を発生させます。そのようにして乱れは流れの中を広がっていきます。乱れが乱れを呼ぶ格好です。 次回は、乱流のメカニズム(2)をお送りします。





著者プロフィール
伊丹 隆夫 | 1973年7月 神奈川県出身
東京工業大学 大学院 理工学研究科卒業
博士(工学)

大学では一貫して乱流の数値計算による研究に従事。 車両メーカーでの設計経験を経た後、大学院博士課程において圧縮性乱流とLES(Large Eddy Simulation)の研究で学位を取得し、現職に至る。 大学での研究経験とメーカーの設計現場においてCAEを活用する立場という2つの経験を生かし、お客様の問題を解決するためのコンサルティングエンジニアとして活動中。

 

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