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もっと知りたい! 熱流体解析の基礎22 第3章 流れ:3.5.2 境界層

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もっと知りたい! 熱流体解析の基礎

3.5.2 境界層

 図3.36に示すように物体の周りを 粘性 のある 流体 が流れると、粘性の働きによって物体の表面付近に速度 が遅い領域が形成されます。この領域を 境界層 といい、境界層の外側の領域を 主流 といいます。一般には、壁面から速度が主流速度の 99 % に達するまでの領域を境界層と呼びます。なお、この境界層は速度に関するものであることから、速度境界層 と呼ばれることもあります。


境界層
図3.36 境界層


 境界層の中の流れにも、 層流 乱流 があり、前者を 層流境界層、後者を 乱流境界層 といいます。図3.37のように十分長い平板の上を流体が流れると、層流境界層が平板の先端から徐々に発達し、その厚みを増していきます。そして、次第に乱流境界層へと 遷移 していきます。両者が混在した領域は 遷移領域 と呼ばれます。層流境界層では壁面から主流に向かって滑らかに速度が変化しますが、乱流境界層では境界層内の流れが乱流状態となるため、より複雑な構造となります。


層流境界層と乱流境界層
図3.37 層流境界層と乱流境界層


 なお、乱流境界層では流体の乱流運動による運動量交換が盛んに行われるため、境界層全体の厚みは層流境界層よりも厚くなります。ところが、乱流境界層のほうが壁面付近の速度変化が急激になる分、熱流体解析 によって現象を再現することは難しくなります。

 もっと知りたい   乱流境界層の構造
 乱流境界層は図3.38に示すような構造となり、壁面の近傍には粘性の影響を強く受けた 粘性底層 という領域ができます。この領域では流れは層流に近い状態となります。その外側には乱流状態へと遷移していく領域が形成されます。この領域を 遷移層 あるいは バッファー層 といいます。そして、その外側の完全な乱流状態の領域を 乱流層 といいます。乱流層では、流れの時間平均速度が対数を用いて表現されるため、この領域のことを 対数領域 と呼ぶこともあります。一般に、乱流層から壁面までの領域のことをまとめて 内層 といい、それ以外の部分を 外層 といいます。外層では主流と乱流が混在した状態になっています。


乱流境界層の構造
図3.38 乱流境界層の構造


  もっと知りたい   乱流境界層の速度分布
 粘性底層と乱流層の速度分布は、実験に基づく解析によって、以下の式で与えられることが知られています。



 ここで、u+は無次元化された速度で、流れの平均速度 摩擦速度 を用いてで定義されます。また、y+ は無次元化された壁面からの距離で、壁からの距離 y と摩擦速度 動粘性係数 ν を用いて で定義されます。なお、y+ のことを 壁座標 という場合もあります。摩擦速度は壁面せん断応力と流体の 密度 ρ を用いて、と表されます。

 特に乱流層の速度分布を表す式のことを、対数を用いた表現であることから、 対数則 といいます。また、これらの式は壁近傍の流れの速度分布を示したものであることから、両者をまとめて 壁法則 と呼ぶことがあります。これらの式で与えられる速度分布を図に示すと、図3.39のようになります。


乱流境界層の速度分布
図3.39 乱流境界層の速度分布

 

これを y+の範囲ごとに整理すると以下のようになります。  

0   y+ ≦   4 ~  5 :粘性底層
4 ~ 5  < y+ ≦ 30 ~ 70 :遷移層
30 ~ 70   y+ :乱流層

 

 乱流の熱流体解析において 乱流モデル というものを使用する場合があります。このとき、使用する乱流モデルの種類を、y+の値が11.6 未満か、それ以上かによって判断することがありますが、このしきい値は図3.39において粘性底層の式と乱流層の式が交わる y+の値に相当します。
 





著者プロフィール
上山 篤史 | 1983年9月 兵庫県生まれ
大阪大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 博士後期課程修了
博士(工学)

学生時代は流体・構造連成問題に対する計算手法の研究に従事。入社後は、ソフトウェアクレイドル技術部コンサルティングエンジニアとして、既存ユーザーの技術サポートやセミナー、トレーニング業務などを担当。執筆したコラムに「流体解析の基礎講座」がある。 

 

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