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もっと知りたい! 熱流体解析の基礎45 第5章 物質拡散:5.3.3 対流物質拡散

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もっと知りたい! 熱流体解析の基礎

5.3.3 対流物質拡散

 流体 流れ を伴う場合には、流れ(対流)によっても、物質が運ばれて拡がっていきます。

 対流物質拡散 の例として、図5.14のように水たまりの上を風が吹く場合を考えます。水たまりの表面からは水が蒸発するため、水蒸気の 濃度湿度)は水たまりの表面で最も高くなります。そして、水たまりの表面から離れるにつれて濃度が低くなり、十分離れたところでは風に含まれる水蒸気の濃度と等しくなります。このような場合に、物質の発生源付近に形成される濃度変化が急激な領域のことを 濃度境界層 といいます。



図5.14 水たまりの上を風が吹く例


 さて、水たまりの表面から空気へと伝わる水分の 質量拡散流束 j [kg/(m2・s)] が、水たまり表面の水蒸気濃度 ρw [kg/m3] と十分離れた位置の水蒸気濃度 ρf [kg/m3] の差に比例すると考えると、以下のような式で表すことができます。



 式中の比例係数 hmのことを 物質伝達率 といい、その単位は m/s です。これは、対流熱伝達 の式における 熱伝達係数 に相当するものです。

 対流熱伝達と同じように、物質の発生源近傍の流速が大きいほど物質伝達率は大きくなります。特に流れが 乱流 の場合には、乱れによって拡散が促進されるため、物質伝達率は極めて大きな値をとります。このように乱流による拡散が支配的な状態を 乱流拡散 といいます。同じ晴れの日でも、風がある日のほうがより早く洗濯物が乾くのはこのためです。乱流拡散による物質拡散は、分子拡散 に比べて十分大きいことから、乱流における物質拡散を考えるときには、分子拡散による影響を無視できる(拡散係数 を0と見なせる)場合があります。


 もっと知りたい   境界層厚さと無次元数の関係


 前回の  もっと知りたい  で プラントル数シュミット数ルイス数 という3つの 無次元数 を書きました。これらは 速度境界層温度境界層濃度境界層 の境界層厚さの関係を表しており、図5.15に示す関係が成り立ちます。



図5.15 境界層厚さと無次元数の関係


 いずれも値がおよそ1のときに両者の厚みが等しくなり、それ以外の場合には一方の境界層がもう一方の境界層より厚くなります。この場合、境界層付近の様子を厳密にシミュレーションするためには、薄いほうの境界層に合わせた解像度が必要となります。

 もっと知りたい   律則段階

 物質AとBが反応してCに変化する(A + B → C)とします。

 ある状況において、AとBが空間中を拡がっていく速度が十分大きく、Cが生成される速度が反応速度によって決まる場合を 反応律速 といいます。一方、反応速度が十分大きく、Cが生成される速度が物質の拡散速度によって決まる場合を 拡散律速 といいます。

 例として材料を投入すると、製品を作る機械を考えます。機械のところに材料を運ぶ速度が拡散速度、製品を作る速度が反応速度に当たります。図5.16の上の図のように、製品を作る速度(反応速度)が大きくても、材料を運ぶ速度(拡散速度)が小さいと、製品ができ上がるまでに掛かる時間は、材料を運ぶ速度に左右されるため、拡散律速となります。

 これに対して図5.16の下の図のように、材料を運ぶ速度が大きくても、製品を作る速度が小さいと、製品ができ上がるまでに掛かる時間は、製品を作る速度に左右されるため、反応律速となります。

 このように化学反応で生成物ができる速度は、最も遅い速度に支配されます。このような反応段階のことを 律速段階 といいます。



図5.16 材料を加工する機械





著者プロフィール
上山 篤史 | 1983年9月 兵庫県生まれ
大阪大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 博士後期課程修了
博士(工学)

学生時代は流体・構造連成問題に対する計算手法の研究に従事。入社後は、ソフトウェアクレイドル技術部コンサルティングエンジニアとして、既存ユーザーの技術サポートやセミナー、トレーニング業務などを担当。執筆したコラムに「流体解析の基礎講座」がある。   

 

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