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もっと知りたい! 熱流体解析の基礎39 第4章 伝熱:4.7 相変化と伝熱

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もっと知りたい! 熱流体解析の基礎

4.7 相変化と伝熱

 物質が を受け取る、もしくは放出すると物質自身の 温度 が変化するか、あるいは物質の状態が変化(相変化 )します。物質の状態が変化するというのは水であれば、水(液体 )が氷(固体 )や水蒸気(気体 )に変化することにあたります。

 淹れたての熱いコーヒーを部屋に放置しておくと、コーヒーから周囲の空気へ熱が逃げるため、コーヒーの温度はやがて室温まで下がります。その間、コーヒーの状態(液体)は変化せずに温度だけが変化しますが、このように物質の状態を変化させることなく、温度のみを変化させる熱のことを 顕熱 といいます。

 一方、暑い日に打ち水をすると、水が蒸発して地面の温度が下がります。これは水(液体)が地面から熱を受け取って 蒸発 し、水蒸気(気体)へと変化するためです。このように物質の状態変化に使われる熱を 潜熱 といいます。状態変化が起こっている間は、熱は状態変化のみに使われ、温度は一定となります。

 水(氷・水・水蒸気)を例に取ると、熱量と温度の関係は図4.28に示すようになります。


図4.28 水における熱量と温度変化の関係
図4.28 水における熱量と温度変化の関係


 蒸発や 凝縮 など相変化を伴う場合の伝熱量(潜熱)は、相変化がない場合の伝熱量(顕熱)と比較して非常に大きくなるため、身の回りの様々なところで活用されています。例えば、エアコンも潜熱を用いた機器の一つで、冷媒の蒸発と凝縮を利用して室内と室外の熱交換を行っています。

4.8 伝熱の基礎方程式

 伝熱 に関する 基礎方程式 検査体積 に出入りする 熱量 の保存を考えることによって得られ、一般にはこの式のことを エネルギー保存式 といいます。 デカルト座標系 (x-y-z 座標系)において、 比熱 熱伝導率 が一定の 非圧縮性流体 流れ を考えます。流体の 密度 ρ 定圧比熱 cp、そして、熱伝導率 λ をこれらの積で割った 熱拡散率 α = λ / (ρcp) を用いるとエネルギー保存式は以下のように書くことができます。

ここで、t は時間、T 温度 Q は発熱量、u, v, w はそれぞれ x, y, z 方向の流速を表しています。

上式の左辺第一項(赤枠)は温度の時間変化を表しています。
左辺第二~四項(黄枠)は、図4.29に示すように温度分布が流れによって運ばれていく様子を表しています。冬の北風をとても冷たく感じるのは、北の地域の低い温度が風によって運ばれてくるためですが、この効果を表現したものになります。


図4.29 流れによる熱移動
図4.29 流れによる熱移動


右辺第一項(緑枠)は 熱伝導 によって周囲に熱が伝わる様子を表しています。図4.30に示すように温度差がある物体を接触させると、やがて温度が均一になりますが、この効果を表したものです。


図4.30 熱伝導による熱移動
図4.30 熱伝導による熱移動


そして、右辺の第二項(青枠)は発熱による影響を表しています。発熱がない場合には0となります。

 この式には流体の 粘性 によって生じる摩擦発熱は含まれていません。実際、身の回りで見られる空気や水の流れでは摩擦による発熱が無視できることがほとんどです。しかし、樹脂などのように流体の 粘性係数 が非常に大きい場合や、粘性係数が大きくない場合でも 音速 に匹敵するような高速な流れでは、摩擦による発熱が無視できないため、エネルギー保存式にその効果を含める必要があります。

  固体 では流れが生じないため、熱は熱伝導によってのみ伝わります。そのため、先ほどのエネルギー保存式から流れの効果を表す項(黄枠で囲んだ左辺第二~四項)を取り去った以下の式が基礎方程式となります。






著者プロフィール
上山 篤史 | 1983年9月 兵庫県生まれ
大阪大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 博士後期課程修了
博士(工学)

学生時代は流体・構造連成問題に対する計算手法の研究に従事。入社後は、ソフトウェアクレイドル技術部コンサルティングエンジニアとして、既存ユーザーの技術サポートやセミナー、トレーニング業務などを担当。執筆したコラムに「流体解析の基礎講座」がある。 

 

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